集中できない、眠れない。そんな現代人を悩ませる慢性的な疲労や不調は、実は「隠れ脱水」に原因があった。適切な水分補給こそが健康的でハツラツとした毎日を送るための鍵だと訴える医学博士のダナ・コーエン氏と人類学者のジーナ・ブリア氏の共著『「食べる水」が体を変える』(講談社)では、本当に効果のある水分補給メソッドを、科学的エビデンスと文化人類学の知恵をもとに紹介している。午後3時までのデスクワークが脱水を引き起こす、ペットボトル1本の水よりリンゴを1個食べたほうが効果的など、これまでの水分補給の常識をくつがえす、目から鱗の事実が満載だ。ここでは、その中から特にアスリートや日常的に運動を行う人が知っておきたい水分補給のコツについて紹介していきたい。
体への吸水性を最も高める方法は、植物に封じ込められた水を“食べる”ことだった!
人間は「水」からできていると言っても過言ではない。成人では体重の約60%が水分で構成されており、十分に水分をとっていなければ、運動や適切な食事、ストレス管理や睡眠といった健康を維持するためのあらゆる行動は無駄になると言われるほど重要な要素だ。特に筋肉量が多く、脂肪量の少ないアスリートでは水分不足の影響がさらに高まり、運動中の発汗による水分の消失は、集中力やスキルレベルの低下を引き起こすことが知られている。
しかし、水をただ飲むだけでは問題は解決しない。量をたくさん飲むのではなく、水を最も必要とする筋肉や細胞、筋膜にしっかり浸透させる方法を見つけることが重要になる。そこで注目されるのが、本書のタイトルにもなっている「食べる水」という概念だ。
これは果物や野菜といった水分を含んだ植物を食べることで、より深いレベルでの水分補給を可能にしようとする考え方で、体内に水分を長く留めておく効果もあるという。
葉野菜、果菜、根菜、果物、種子といった植物の栄養価が高いことは以前から知られていた。しかし、現在、植物に含まれる水分を摂取することは、水だけを飲むより効果が高いことが判明されつつある。植物の水分はすでに精製され、ペーハー(水素イオン濃度)のバランスもよいアルカリ性で、ミネラルを含み、栄養素も豊富で、構造化され、活性化されているため、細胞に吸収されやすいのだ。
(『「食べる水」が体を変える』から抜粋。以下同)
植物に閉じ込められた「水(プラントウォーター)」は、一般的な「水」とは違うゲル状の水分であり、人の細胞内の水と同じ種類のものだというのが筆者たちの主張だ。そのため体内への吸水性が高く、より効率のいい水分補給を可能にするという。
植物という食材を水分として利用する方法は、現代ではスムージーがイメージしやすいが、実はこれは砂漠地方で暮らす遊牧民たちも実践している古くからの自然の知恵であり、地球上で最も賢い水分補給のやり方なのだ。
「食べる水」で効率アップ!細胞の渇きを癒す最善策「クエンチプログラム」
では、この「食べる水」による適切な水分補給は、アスリートや運動をする人にとって、どんなメリットがあるのだろうか?
・よりうまく、より強く、より速くなりたいアスリートなら、適切な水分補給によって大逆転する可能性もある。
・関節、筋肉、筋膜が十分滑らかになるため、体の柔軟性が増す。
・活力が湧き、脱水症が原因となることの多い疲労から抜け出せる。
その他にも、運動前の水分補給は、脱水症状を防ぐだけでなく、体の組織や細胞を衝撃から守る働きがあり、脳震盪を防ぎ、筋肉を保護する目的からも重要な行動だと筆者たちは語る。
本書では、こうした体のあらゆる機能を向上させる「食べる水」を、野菜や果物を使ったスムージー中心の食事方法で効率よく水分補給することを提案。それを細胞の渇きを癒す最善策「クエンチプログラム」として紹介している。その3原則は次のとおりだ。
「クエンチプログラム」の3原則
1.飲み物から最大限の水分を吸収する
飲み水から最大限吸収し、細胞レベルまで届かせるにはどうすればいいだろう?
・起き抜けに、240〜480mlの水に海塩ひとつまみとレモン汁を加えて飲み、体内をしっかりと潤わせる。
・グリーンスムージーを一日1杯以上飲む。
・毎食前に180〜240mlの水を飲む。
2.食品からもっと水分を取る
植物を豊富に入れたスムージーなら、同じ量のボトルウォーターよりはるかに水分補給できる。
3.運動することで体中に水分を行き渡らせる
なかでも3番目の「運動することで体中に水分を行き渡らせる」は、スポーツにも関わる「マイクロムーブメント」という細胞の小さな動きが影響している。人間が体を動かすと、筋肉や筋膜、皮膚は滑車のように働いて、骨格構造を伸ばすと同時に、水分を細胞組織の奥深くまで流し込む作用をもたらすという。運動は脱水を引き起こすと思いがちだが、むしろ逆で、水分補給に欠かせない大切な活動なのだ。
ポイントはマラソンのようなハードな有酸素運動ではなく、腕や足、首や背骨を軽くヒネる程度の小さな動きだけでも十分な効果があるということ。これなら仕事中に椅子に座ったままでもできる。このわずかなマイクロムーブメントをきっかけに、取り込まれた水分が体内に行き渡り、細胞は活性化され、より多くのエネルギーを得ることにつながるのだ。
適切な水分補給の目安と、オススメしたい自家製スポーツドリンク
こうした適切な水分補給は、実際の運動中にどの程度行えばいいのかも気になるところだ。一般的には喉の渇きを目安に行ってしまいがちだが、それだと水を飲み過ぎてしまう恐れがあるという。本書では、汗をかいたら次のような水分補給を推奨している。
一般的な運動中
…15分ごとに120〜240mlの水を飲むこと。
マラソンなどの過酷な運動中
…開始2時間半前に2.5カップ(600ml)程度の水を飲み、15分前にまた1.5カップ(360ml)くらい飲むこと。
また、この「食べる水」という優れた水分補給メソッドと照らし合わせると、アスリートの定番飲料として高い支持を集めてきたスポーツドリンクの効果に疑問の余地が生まれるというエピソードも興味深い。そこには多くの人々に信じ込まれてきた偽りの真実が存在していた。
スポーツドリンクには好ましくない糖類やその代用品だけでなく、合成電解質も使用されている。これは工場で製造されたミネラルで自然のものではない。そして、合成ミネラル入りのスポーツドリンクは広範囲の微量ミネラルを失わせる。(中略)添加ビタミン入りのドリンクについても同じことがいえる。
市販のスポーツドリンクは濃すぎるので、薄めて飲んだ方がよいという話は聞いたことがあったが、配合されている合成成分自体に問題があったとは……。代わりに本書では、持久力を必要とするアスリート向けに、天然成分だけで作る自家製スポーツドリンクのレシピを紹介している。この飲料を飲めば、アスリートや運動を行う人にとって必要な電解質、水、炭水化物を効率よく補充できるとのことだ。
―自家製スポーツドリンクレシピ―
・水あるいはココナッツジュース、240〜360ml
・天然塩、ひとつまみ
・レモンあるいはライム果汁、ひとしぼり(15〜30ml)
・ハチミツあるいはメイプルシロップ、小さじ1杯
現代人が抱える不調の原因は脱水にあり、それを「食べる水」という斬新な発想で解消しようとする著者たちの試みは、水分補給を要とするアスリートたちにとっても学びが多い。十分な水分を補給することで体は癒せる。この事実を理解するだけでも、大きな健康効果が期待できるはずだ。
<参考図書>
「食べる水」が体を変える 疲労・肥満・老いを遠ざける、最新の水分補給メソッド
ダナ・コーエン (著)、ジーナ・ブリア (著)、 服部 由美 (翻訳)/講談社
疲労や肥満、老化を遠ざける、おどろきの水分補給メソッドを紹介する一冊。医学博士と人類学者の2人の著者が、確かなエビデンスと文化人類学の知恵から生まれた、果物や野菜の水分で体を潤す食事法を指南する。
text by Jun Takayanagi(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock
え!運動後のスポーツドリンクはNG?本当に効果的な水分補給のコツ - マイナビニュース
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