三菱地所株式会社は1月25日、経済産業省と共催で「ロボットフレンドリーな環境・まちづくり」に関する記者会見を開いた。三菱地所は「三菱地所デジタルビジョン」の実現に向けた取り組みの1つとして、人とロボットが共存する「ロボットフレンドリーなまち」を標榜している。人手不足への対応や施設維持管理の効率化のために積極的にロボットを活用しており、現在、約100台のロボットを警備、清掃、運搬等で活用している。
今回は、ロボット活用のユースケース創出や人手不足の課題解決に向けたロボット活用を目指す活用例として、弁当をアプリで注文するとロボットが弁当を屋外から運ぶ様子や、清掃ロボットがビルのエレベーターと連携してフロア間を移動する様子などがデモンストレーションされた。
「ロボットフレンドリーなまち」とは?
経済産業省はいま「ロボットフレンドリー」という概念を推進している。サービスロボットの普及に向けてロボットを導入しやすい環境(=ロボットフレンドリー)を整えようという考え方だ。
ロボットフレンドリーの対象分野は、人手不足が顕著な施設管理、小売、食品製造等となっている。今回の取り組みは、そのうちの施設管理にあたる。ロボットをオフィスビルや商業施設で有効に活用するためには、ロボットを自由に縦移動させるためのエレベーター連携、横移動させるためのセキュリティドア連携が欠かせない。そこでそれら施設管理機器とロボットとの間の統一された通信規格を定めようという考え方が進められている。
経済産業省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室長の大星光弘氏は、「コロナ禍で無人化省人化ニーズが高まっている。経済産業省では、労働力不足が顕著でロボットが導入されていない分野に対して取り組んでいる。ロボットが導入しやすい環境を実現する観点から、ロボットシステムの導入を担うシステムインテグレータ、三菱地所のようにロボットを導入するユーザーと一体となって取り組んでいる」と挨拶した。
事業の概要は、同室長補佐の福澤秀典氏が紹介した。サービスロボット普及の課題は、個別のロボットシステムが特定ユーザー向けとなってしまっており、ほかのユーザーが使おうと思ったら仕様が合わなかったり、高コストな状況となってしまっていることにある。これでは普及は進みにくい。
これに対しロボットフレンドリーでは、ユーザーの業務フローや施設環境を、ロボットを導入しやすい環境に変えることを提案する。これによってロボットシステムを一品ものにしてしまうカスタマイズは不要になり、ロボットの仕様も修練することでより導入しやすい価格にし、市場をスケールさせて、社会実装を加速することを狙う。「ロボット導入の環境サイドのイノベーション」が重要だと福澤氏は語った。
経済産業省ではこのためにロボット実装モデル構築推進タスクフォースを設置。施設管理、小売、食品(惣菜盛り付け)、物流倉庫などで、ユーザーとシステムインテグレータが一体となってロボットフレンドリーな環境の実現を目指す。
施設管理テクニカルコミッティ(TC)では、いかなるメーカー製のロボットであっても、いかなるエレベーターやドアと連携。どの施設でも自律的に施設内の搬送、清掃、警備を実施できる世界を目指す。
そのために、ロボットとエレベーターの通信連携、ロボットとドア(自動ドアやフラッパーゲート等)との通信連携、施設環境の物理特性(床、壁、斜度、段差、照度など)の標準化、複数ロボを同時制御するためのロボット群管理制御システム、安全性、そして技術的な要素だけではなく「人々の寛容さ」などが、必要な「ロボフレ環境」だとしている。
この取り組みは経産省 補助事業「令和3年度革新的ロボット研究開発等基盤構築事業(ロボットフレンドリーな環境構築支援事業の採択事業)」の一環として行なわれている。これまでにロボットエレベーター、ドアとの通信連携システム、必要な規格の策定を行なっており、2022年には施設活用結果をフィードバックし、必要な改正を実施して、国際標準化を狙う。今後もロボットと扉の通信連携、群管理制御システムの研究開発に取り組む。
ほかのタスクフォースについても、小売については商品情報規格の統一や共有などを行なっている。また、弁当の盛り付け工程の自動化にも取り組んでいる。不定形物の把持はロボットが苦手なので、盛り付けのやり方自体を変えるという発想で進めており、いま何らかのかたちで盛り付けラインを実装しようとしているという。昨年度立ち上げられた物流TCについては、荷姿の標準化を中心に進めている。
ロボットがビル内設備やほかのロボットとも連携
三菱地所株式会社 DX推進部長の太田清氏は、スマートシティの実現に向けたロボットの活用、配送、清掃の中でも活用について概要を紹介した。三菱地所は大手町、丸の内、有楽町で、「アップデート」と「リデザイン」により「データ利活用型エリアマネジメント」の実現を進めている。ロボット活用はその一環だ。
ロボットに期待していることは、より便利にすること、省人化による生産性の向上、省力化、そして新型コロナ禍でニーズが生まれた非対面/非接触の実現である。
配送については、ロボットがフードデリバリーを行なう。以前から活用されているスカイファーム株式会社のお弁当デリバリーサービス「NEW PORT」とロボット、ビル設備を連携させることで、アプリから弁当を注文、ロボットが配送する。
ロボットはセキュリティドアを通過し、エレベーターを自分で呼んで乗り込み、屋内の部屋まで配送を行なう。実証実験を通して、ニーズも検証する。
また雨天の屋外でも使用でき、セキュリティにも対応する配送ロボットも併用して活用する。こちらもエレベーターとも連動する。配送についてはこの2つを組み合わせる。
清掃ロボットの活用も行なう。清掃ロボットも現在は各フロアごとに人が移動させなければならなかったが、エレベーターをロボットが自ら呼んで使えるようになると、清掃員の時間を使わずに、より広い面積を自動で掃除させることができる。
最初は人がスタートさせるが、指定のエリアを掃除したあとはエレベーターに自動で乗り込み、セキュリティドアとの連携で共用部以外も掃除を行なう。
現在、三菱地所では特に清掃ロボットは積極的に活用されているとのこと。今後も、ロボットがフロア間を移動することで稼働範囲を広くし、ロボットがより活躍できるロボットフレンドリーな環境の実現を目指す。
声優の関智一さんも登場
会見には、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催する「World Robot Summit(WRS) 2020」のオンライン会場である「WRS VIRTUAL」来場者のアバターキャラや、WRSオリジナルアニメ「WRSへようこそ!」に登場したアバターロボット「パットくん」と、パットくんの声を務めた声優の関智一さんも登場した。
なお、パットくんはWRS 2020の任を終えたあとも、経済産業省によるロボット政策推進のシンボルとして、引き続き活躍している。ロボットのデモンストレーションも、関氏にロボットを紹介するという体裁で進められた。
家族型ロボット「LOVOT」のオーナーとしても知られている関氏は、「ロボットのことは身近に感じている。どんなふうに進化しているのか興味津々。今日も楽しみにしている。ロボット配送は人見知りだから逆に助かるかもしれない」と語った。
3種類のロボット
実際にデモされたロボットは3種類。NECネッツエスアイ株式会社の屋内搬送ロボット「YUNJI DELI」、屋外も走行できるパナソニック株式会社の搬送ロボット「X-Area Robo」、そして同じくパナソニック株式会社の清掃ロボット「RULO Pro」である。
なお、ビルソリューションプロバイダ(エレベーター/セキュリティ連携)は株式会社日立製作所。ロボットとの連携はMQTTとhttpが用いられているという。
3つのロボットのデモンストレーション
デモンストレーションではまず、スマホを使ってビルテナントのお店にお寿司をオーダーすると、ロボットがビル内を自律移動して、お寿司を関さんの手元まで届けた。残念ながら、記者たちが実際に見られたのは会場に入ってくるところからだった。
続けて屋外へ移動。屋外カフェでの配送の様子が紹介された。こちらはパナソニックのロボット「X-Area Robo」が使われており、ロボットは荷物を搭載したあと、屋外のビル敷地内を移動し、ビルの自動ドアを通り抜けていく。今回は見ることができなかったが、実際にはそのままエレベーターとも連携して指定フロアまで移動できるという。
最後に、パナソニックの業務用清掃ロボットによるエレベーター連携の様子が紹介された。ロボットが乗り込むときには「INDEPEND/専用運転中」という表示がエレベーターの階数表示のところに出る。しばらく待つと、ロボットがエレベーターの中から出てきて、掃除を開始した。
「人間同士でもぶつかることはある」
デモ後に行なわれたアフタートークでは、関智一さんは「たまに失敗してくれるところが可愛い。あえてたまに失敗する、褒めてあげるとパフォーマンスが上がるといった機能もおもしろいのでは」と述べた。
三菱地所 DX推進部 副主事の村松洋佑氏も「性能だけでは認知度が上がらない。表情のような要素も重要かもしれない」と答えた。経済産業省 ロボット政策室 室長補佐の福澤秀典氏も「機能と効率性だけ考えてしまうことが多いが、将来性を考えると、コミュニケーションできないと人の側にも寛容性が生まれないかもしれない」と受けた。
関氏は「ドラえもん」スネ夫役、「鬼滅の刃」不死川実弥役、「呪術廻戦」パンダ役など様々な役柄を演じているが、特に「キカイダー」は印象に残っているそうだ。
そのほかトークでは、ロボットと人の距離感をよりよくしていくために「声」はどうあるべきかといった内容の話が行なわれた。関氏は「個人も大事だが社会がどう受け入れられるかも重要になるのではないか。徐々に身近になり、いずれは当たり前になるのではないか。人間同士でもぶつかることはある。ロボットが頑張っていることも知ってもらいたい」と語った。
屋内外を統合した3Dデジタルマップを使ったロボットの走行
同日午後には、大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会による、丸の内仲通りでのカフェからのロボットでの配送実験の様子が公開された。
こちらは特定の業者が個別に自動運転用マップを作成するのではなく、汎用的な3Dデジタルマップを構築し、歩行者、モビリティ、ロボットが共存するウォーカブルな人中心の都市を作ろうというもの。大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会のほか、アイサンテクノロジー、三菱地所、三菱地所設計の4者による取り組みだ。
今回の実験では、建築物のBIM(Building Information Modeling)データと高精細3D都市モデルから3Dデータを取り込んで統合。屋内と屋外、データ提供者も異なるデータを統合して、汎用的な自動運転用高精度3Dデジタルマップを作った。ロボットはこのデジタルツイン基盤をもとに走行した。マップ作成はアイサンテクノロジーが担当した。
従来は、それぞれの事業者が実空間で実測量をして点群データを取得し、走行用データを作っていた。今回は屋内/屋外の異なる提供データを統合し、さらに3D仮想空間の中で、3D LiDARで仮想測量を行なって3Dマップを作った。
今回は、そのどちらの方法を使っても実際に想定どおりに走行できるということを検証した。作られた3Dマップと実測とのズレは4cm程度で、今回のような走行ならば問題ないことを確認できたという。また、遠く離れた場所からでもロボットを走行させられるマップを生成できる。
実際に走行するロボットは株式会社ティアフォーが提供した「ロージーS-TC」。自動運転ソフトウェアにはLinuxとROS(Robot Operating System)をベースとした自動運転システム用オープンソースソフトウェア「AutoWare」が用いられている。
現在、移動ロボットはサイズや速度、安全面、監視/操作者との距離など一定の条件を満たせば、道路交通法上の「歩行補助車等(みなし歩行者)として扱われるので、ナンバープレートや道路使用許可申請なしで運用できる。ロボットからは1.2m程度のヒモが伸び、後ろに歩く補助者とつながれているが、技術的には自律で走行できる。
自走配送体験は、丸の内仲通りのテーブルに貼られた2次元コードを読み込むことで専用サイトにアクセスし、ドリンクをカフェ(丸の内2丁目ビルのスターバックス)に遠隔オーダーすると、ロボットが届けてくれるというもの。ロボットの走行距離は約180m。時速3km程度でゆっくりと移動する。
1月22日からの実証実験期間中、24日時点で約80名が参加したという。大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会では、今後もロボットフレンドリー環境を様々な面から形成していく。
ロボットが弁当やドリンクを宅配。三菱地所が目指す「ロボットフレンドリーなまち」 - PC Watch
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